見えないものを見る。

 ボクネンが版画を彫る理由のひとつに、「世の中には見えるものより、見えないものの方がずっと多い」ということがあります。ですから「見えないもの」への創作の衝動に駆られ、彫る機会も増えます。「見えないもの」とは何か。これはどうにも理解できないままでいました。

それが一冊の民話を読んでいるときにピンときたのです。ヒントはキジムナーでした。キジムナーは湖辺にいる大きな牛でも、水中に引きずり込むほどの怪力の持ち主。ところが小石だけは持ち上げることはできません。この矛盾が「見えないもの」に関係していました。

その民話のなかにあったのは、いろんな神社や寺にある巨石の話でした。この巨石はもともと小さいものでした。むかし高貴なひとが寺を訪れたとき、そこに小石を落として行ったというのです。その小石がどんどん大きくなって、寺や神社の“守り神”になったんです。

話をキジムナーに戻しましょう。キジムナーが小石を持てないのは、高貴なひとの霊が宿っているからなんですね。キジムナーは見えないものを、よく見ているんだとおもいます。

いま生きているひとたちも、見えないものをもっと見れるようになれば、この世の中のなにかが変わるような気がしませんか。(當山)<掲載画『これあげるよ』2010年>