おんぶ。

 

ちょっと前のことです。「ママと赤ちゃん」ふうのテレビ番組で主婦アドバイザーらしき方が言うには「最近は“おんぶ”をするお母さんが見あたりません。“おんぶ”はママが少し首を横に動かせば、赤ちゃんの顔を見ながら家事をすることもできます。“おんぶ”は赤ちゃんとのコミュニケーションにもなりますよ」というものでした。

なんだか昔風に家事と子守を主婦に押しつけているような気もしましたが、最近たしかに前抱っこして前に転んだりするママもいると聞きますから、一概にそうとも言えないようです。

この“おんぶ”。大人と子供というのが、普通ですよね。息子とおばあちゃん、おじぃちゃんというのもあります。

ところが私は、以前この“おんぶ”が大人と大人で行われたというのを耳にしました。さすがにこのかたちの“おんぶ”の話はあまり聞きません。でも私はこの話を耳にして言い知れぬ感動を覚えました。

青年が療養中の若い女性を“おんぶ”する話です。

青年とその女性は、小さいころ近所の遊び仲間でした。女性は青年を弟のように可愛がり、青年はその女性を姉のように慕っていました。ふたりは大人になって滅多に会わなくなりました。

青年はその女性がある病院で重篤な病にかかり、入院中とひとづたえに聞き、さっそくその病院へ駆けつけました。

ふたりとも久しぶりの再会に涙しました。

別れ際にその女性は寂しさと辛さに打ちひしがれます。

すると、その青年。おもむろに立ち上がり女性を優しく“おんぶ”したのです。女性は病院内のいろんなひとたちに見られているようで恥ずかしくてたまりません。

それでも青年は小さい頃から尊敬するその女性を“おんぶ”したまま病院内を歩き回りました。青年はこんな形でしか彼女への感謝と回復のためのエールを送ることができませんでした。

彼女はいつしか恥ずかしさを忘れ青年の大きな背中でさらに目に涙を浮かべました。

私がこれまで聞いた“おんぶ”の話で、これ以上こころに響くものはありません。<當山>

(掲載作品『母子の歌』2003年)