投稿日時:2019年05月27日(月) 16:03

夕凪。

 所さんの『笑ってこらえて』という人気番組があります。そのコーナーで、ご当地に行って地元のひとに「ここの自慢できるところを教えてください」と声をかけて紹介してもらうのがあります。

 そんなノリで「沖縄の自慢できるところを教えてください」と訊かれれば、ぼくは迷わず浦添市の丘の上にある『浦添ゆうどれ』と答えようと思います。

これは琉球国王の墓です。だからと言って荘厳華麗というわけではありません。ただこの墓の名前には王さまの「切ないおもい」のようなものがいっぱい詰まっている気がするのです。

その王さまは17世紀の初めのころ、ちょうど薩摩の琉球侵攻時に即位していました。薩摩や幕府の属国となることを断り続けたことで、いよいよ薩摩は琉球にやってきて支配下におきます。王さまはやむなく薩摩に連行されていきます。

その後この王さまが死ぬと歴代の大きな墓に入ることは許されず、出身地である浦添にある墓に骨が納まることになります。この王さまには在位のころから、反感をもつ役人たちも少なくなかったと言います。それにこの王さまには、他にも悲しい出来事がいっぱいあったようです。

さてこの王さまの墓を『浦添ゆうどれ』と言います。『ゆうどれ』は沖縄方言です。標準語では「夕凪」(ゆうなぎ=夕方の海で風が止み静かになること)ですね。

お墓の名前が「ゆうなぎ」であることを最初聞いたとき、なんて寂しく幸薄い墓の名前なんだろうとおもいました。

だけどこの名前、とても美しく奥深いものだとおもいます。この王さまがいろんな悲しみに見舞われて不幸な生涯を送らざるを得なかったということがよく伝わるネーミングですよね。

 これがぼくの自慢する観光名所というわけですが、500年にわたってその深い悲しみが今でもひしひしと伝わってくるのは、この『浦添ゆうどれ』に祀られている王さまの当時の思いがいかに強かったかということでしょうね。                              <當山>

                      (掲載作品『夕凪』(ゆうなぎ)1991年)