投稿日時:2019年05月20日(月) 16:57

梅雨。

 奄美に数日遅れて、沖縄も梅雨に入りました。この梅雨に、私はこれまでとくに関心を示さないで生きてきました。自然に対して敏感に慣れ親しむというところがなく、情緒のない人間なんですね。

ただ、この十数年前から少しだけ情緒のあるひとになりかけています。いまの時期、沖縄は梅雨の初めです。この時期に吹く南風を“黒はえ”と言うのを以前初めて聞いて、その言葉の響きに心を奪われました。まあ、これはすでに知っているひとも多いのかも知れません。

“はえ”は南風ですから“黒い南風”というわけですね。これなら自然音痴の私でもとてもわかりやすいものでした。そして梅雨が終わるころに吹くのが“白はえ”。つまり、“白い南風”ですね。

梅雨のあいだは“黒はえ”が吹きますから、どんよりした黒い雲におおわれ、やはり雨が多くなります。これが梅雨どきなんですね。

そして梅雨が終わりそうになると、白馬の王子ならぬ“白いはえ”がやってきて、“黒はえ”を九州や四国あたりに押し上げていくってわけです。これで沖縄の梅雨が終わります。

この“白はえ”“黒はえ”は、理科に馴染めなかった私にこの歳になって清涼感を与えてくれた言葉でした。これなら、もっと勉強をしたはずなのですが…。

さて、この「黒はえ」「白はえ」を沖縄では「クルフェー」「シルフェー」と呼ぶものですから、私はてっきり沖縄独自の言葉と思い込み、なんだか悦に入っていました。ところがこの「黒はえ」「白はえ」は、江戸時代からある歴史ある気象語らしいのです。ちなみに国語辞典にも載っています。

このことは、沖縄はなんでも個性的で独自性があるという私の思い込みを見事に打ち砕いてくれました。私に限らず沖縄のひとは、沖縄独自のものか、そうでないのかということに、どこかで勘違いすることが多々あるようです。反省、反省。

ただ沖縄の人たちは、日本の古い時代の言葉を今もしつこく使い続けているというのは、確かにあるようです。

「クルフェー」「シルフェー」。なんだか、やんちゃな響きじゃありませんか。この時期、あなたも海岸まで足を運んで彼らに会いに行ってみませんか。<當山>

(掲載作品『突然の雲行』1995年)