胎内。

この文章を読んでいる方で、一度でもボクネン美術館に足を運んでいるひとなら今日の話をいくらか感じてもらえるかも知れません。

ボクネン美術館は外観の大胆な赤瓦屋根のうねりとともに、館内の空間についてもそれぞれの“おもい”が込められました。きょうはその館内について話しましょう。

館内のデザインをしたのは、空間デザイナーのTさん。彼は初めから、美術館はすべて沖縄の素材を使いたいと言っていました。いつか土になっても、沖縄の自然素材だからそのまま大地に帰ったらいいということですね。

床は琉球石灰岩、壁は漆喰で施工。しかしなんと言ってもその大きな特長はすべて館内は曲線や曲面でできているということです。以前にTさんにそのことを聞いてみたら、美術館の内部は「胎内」をイメージしたんだと言っていました。

それを聞いた私は来館者に館内の説明をするとき、「胎内の羊水のなかで癒しを感じるイメージで、美術鑑賞ができればいいですね」とよく鑑賞者に言ったものですが、最近これは「間違いじゃないか」と気づきました。

つまりひとは「胎内」にいるとき、誰もが穏やかに過ごしているとは限らないのではないかと言うことです。私自身、強情で気の小さいところがありますが、その性格についてはある腑に落ちることがありました。大人になって子供の頃の近所のおばさんから聞いたのですが、「あんたの父さんと母さんは、暇さえあれば喧嘩してたよ。壁1枚隔てた隣の家の私なんかもううるさくてねえ」と言われたのです。

言わずもがな私は「胎内」いる時から父母の喧嘩を聴き続けていたことになります。まあこれは私の無理矢理な妄想かも知れません。また、よく6月の梅雨のどきに生まれたひとは、雨音が何よりの子守歌だと言われたり、胎児のとき父母が外国にいたことで、そのひとが大人になって語学が堪能になったという話も耳にしたことがあります。ですから胎内にいるときすべてのひとが、それぞれにいろんなことを感じて育ったんですね。

空間デザイナーのTさんの話に戻りましょう。つまり彼は空間デザインに「羊水の安らぎ」だけを考えたのではなく、ひとの「不安」「寂しさ」「喜び」などもひっくるめてデザインをしたのではないかとおもったのです。

なによりボクネンが作品を制作するときに、いつも絵に「生命の息吹き」を込めたいと言います。これはKさんの空間デザインの「胎内のイメージ」とよくつながるのではないでしょうか。<當山>