ボクネン・インタビュー

—  きょうは版画作品のなかの白い部分、つまり彫刻刀で彫った窪みについて話そうか。言うなれば、そこは着色しないところ何もないところというわけだね。ところが、作品のなかではそこが強烈な“光”をイメージしてしまうことがある。それについてどうおもうのかな。

ボクネン  ああ、そこに来たか。いいところをついたね。実はこのことについて話しておきたいことがあるんだ。つまり僕がよく言う伊是名島で体験した、いわゆる「白い闇」のことなんだ。

—  ああ、あなたが以前に言ったあの「白い闇」だね。このインタビューを読んでいる方には、あなたの話を読んでもらうなかで理解していただきましょう。

ボクネン  ぼくが小学生2年から5年のあいだのときだ。今でいう熱中症にかかってね。あのときは確か日射病と言っていたんだけど。結局、ぼくは3回もかかっているんだよ。そのなかで2回はね、けっこうひどかったね。

—  どういうことで、またそうなったの?

ボクネン  あまりにもね、ティーダ(太陽)のなかに居すぎたものだからさ。海ではおおかた魚つりをしてたんだ。とにかくひっきりなしに外で遊んでたね。結局、強烈な陽に当たりすぎたということさ。

飲料水もね、その遊んでいるところへ持って行くわけでもないからさ。それで一日中、マフックヮ(暑い太陽のなか)に食われ(やられ)てね。自分を養生することについても、全く頓着しない。

− そうか、それじゃ日射病もしかたないな。

ボクネン  真夏のすごい暑いときに稲を収穫したモミ俵をね。たくさん積み上げるでしょ。その俵のなかに夏だと言うのに、ぼくはあまりにも寒いもんだから、潜り込んでね。真夏にあんなとこに潜り込むと言うのはちょっと変わっている。

そのなかにいると稲の芒(ノギ)、あのチクチクするやつね。それが肌に刺さって痛いしかゆい。それでもあのなかに入ってた。それもだいぶ俵を積んであるからね、熱をもっているんだね。とにかくぼくはそこに飛び込んだ。

− それほど体が冷え込んでいた?。

ボクネン  とにもかくにもモミ俵の熱が欲しかったんだ。反射的にモミのなかに潜り込んだんだよ。

−  なるほど。それからどうなったの?

ボクネン  そのとき、おばぁに見つかってさ。「おまえ、どうしたんだよ」って…。モミ俵に潜り込んでいると言うのは、どう見ても普通じゃないわけだからね。とにかくぼくは熱発してたんだ。

−  ふむ。

ボクネン  それで寝込んでしまって。多分、2、3日、目を覚まさなかったとおもう。

—   ははあ。それはまた。

ボクネン そのとき、薬をあげるということで母親が来てね。「ほら、薬だよ」なんて言ってるんだけど。ぼくはそのとき、どういうわけか幻覚を見ててさ。

—    そうか。それは、それは。

ボクネン    母親が向こうから「ヴォーヴォー」と言いながら近づいてくる。何か化け物が来る感じがしてさ。怖いんだよ。母親が薬を出して、「ほら、飲みなさい」なんて言うんだ。

—    そこで、あなたは目を開いていたの。

ボクネン  うん。開いてた。幻覚だからね。天の頂きみたいなところから手が出て来てさ。「ヴォー」なんて伸びて来るんだよ。目の前に大きな手がほんとに伸びて来るんだ。

ぼくは奇声を発してさ。母親は相変わらずなにか言ってるようだった。そのとき母親に見えたのは、おばぁだったかも知らないけど。

とにかくその手が空から迫って来る感じがしてとても怖かったんだ。ぼくはもうおお暴れしてね。母親も、「もうこの子は、大変なことになった」なんて大騒ぎしてるんだ。

—  それは大変だ。

ボクネン   そんなときに限って、小便をしたくなってね。用を足す場所はだいぶ離れていたんだ。僕はヨタヨタしているもんだから、なかなか行けないわけだよ。その場所に。

それからアマハジ(長い軒先)から出て、屋敷のなかの植え込みの芝生のところに歩いて行ってね、用を足したんだ。

—うん、うん。

ボクネン  そのときに、縁(へり)という縁にね、虹色のレインボーが出てたんだ。それは暗いところと明るいところの間に虹色ができてさ、それを見ながら、僕は「綺麗だなー」なんて言ってるわけだ。

−  ははぁ。これはもう異常な雰囲気だね。

ボクネン いわゆる幻覚だよね。そこで庭に出ると「パーン」と陽が射してるでしょ。そしたら目がやられるわけだよ。「カーッ」となって「白い闇」が見える。そのとき初めて僕は「白い闇」があることに気づいたんだ。

「バーッ」と真っ白になってさ、何も見えない。しばらくすると、だんだん染み(シミ)のように黒い点が出て来るわけ。だけどまだ色じゃないんだよ。染みが出て来るようになって、だんだん庭の石垣とか桑木とかヒンプンとかがさ、「グワッー」と染み出すように、立ち上がって来るんだよ。

—    染みというのは、ひょっとして影のかたまりのような感じ?

ボクネン  そう。影のかたまり。その染みがひとつずつ形を整えていって、ヒンプンや石垣などに形がつくられていく。子供心にそれが珍しくてね。

黒は、より黒として染み出てくるんだ。深い黒としての存在が沈殿して来るようなね。同時に太陽の明るさが「バシーン」と出て来てさ、明るさと暗さが二つに分かれて来る。

僕は目をやられているから真っ白になってなにも見えないわけだよ。これが僕の言う「白い闇」だよ。

—    その「白い闇」は、透明ではないわけだね。

ボクネン そう、透明ではない。白かったという印象だね。とにかく色もない。まあ、何もない。真っ白の闇。「白い闇」っていうのは、そういうことだよ。

ぼくはそのときに知覚したわけだ。黒いシミが出て来て現実が象られていく。白と黒の絶対比というか、ああ世の中はこのようにできているんだというふうに思ったね。これが最初の色に対する強烈な体験なんだ。

−  日射病の体験からその「白い闇」の体験になったわけど、それは日射病だからこそそこに行き着いたということかも知れないな。

ボクネン そうだね。幻覚の要素もいくらか入っていただろうからね。

−  きょうはあなたが版画で着色しない“白い”部分に輝きを感じさせる意味が少しわかった気がしたな。また、物体やひとの縁(ふち)という縁にレインボーの色が浮き出て見えたことも、あなたの色へのこだわりや原初的な色の世界を支えてきたような気がしたね。きょうはどうも。   (1918.10.11 アカラ)