ボクネン ・インタビュー

 

−  「キジムナー展」が7月の21日から始まりました。きょうはキジムナーの話をしましょう。

ボクネン  うん、うん。

−    まずは民話の『久米島のキジムナー』※ですが、あれは松寿(まつじゅう)が女房を恐れて、キジムナーの住む老樹を燃やしたのではないかということです。ですから、松寿は単なる気の弱い夫に過ぎなかったと思う。そのこと自体に男と女の深い溝が見える気がします。

久米島のキジムナー=昔、ある夫婦が住む屋敷の裏に老樹があり、そこにキジムナー<木の妖精>が住んでいた。夫の松寿とキジムナーはそのうち仲良しになり、漁が得意なキジムナーは松寿にたくさんの海の恵みをプレゼント。それが毎日なものだから、松寿もうんざり。老樹に火をつける。住む家を失ったキジムナーはそこから出て行ってしまう。何年もあと、ある町で松寿と偶然会う。しかしキジムナーはあのときの恨みを晴らそうとヒジリで松寿の目を刺してしまう。

ボクネン  ふむ、それはよく気づいたね。このことは大人でもなかなか気づかないし、子どもだったらもっと気づかないことなんだ。

    ほう、そうですか。

ボクネン  まず、キジムナーは自然の象徴なんだね。片や女房は人間の象徴。この物語は人間側からの見方を展開しているんだ。松寿はキジムナー(自然)を裏切ることになったけれど、決して本心ではない。

—   なるほど。

ボクネン ここで大事なことは、キジムナー(自然)は加減を知らないということだね。人間は健全な社会形成をするために、その加減をやりすぎないように調整するんだ。しかし民主主義というのは諸刃の刃だから、その調整で人間の心を踏みにじることもままある。この物語で抑えておかなければいけないことは、松寿が人間側の考えに行ってしまったんだね。それはそれで必要なことなんだ。

—   ははあ、松寿はあまりにも人間的だったわけですね。

ボクネン  そこで言いたいんだけど、いわゆる社会と距離をおく異界の状態というのは、いつも人間の側にあるわけだ。異界というのは自然の奥にあるもの、つまりこの世の根幹だね。だから女房は、夫にこの社会でもっと頑張ってもらうために、異界から引き離し松寿に社会でもっと働かせたいわけだ。

—   これは社会も女房の行動を支持しているわけだね。

ボクネン そう。そのことは夫婦が子供を育てて家庭を維持していくために必要な社会の構造そのものなんだ。男はそのまま放っていくと糸の切れたの凧のようになって、ほんとはキジムナー(自然)とうまくやっていけるはずなんだけどね。女性はそれを許さない。しかしそれは最終的には人間たちの幸せの形になるんだ。男は家庭で女房や子供を自分が育てていると自信を持って疑わない生き物。ただ、男はそういう哲学に勝手に酔いしれているだけなんだね。

—   あっははは。そうか、僕なんかもうひとたまりもないなぁ。

ボクネン しかし女性は男を意識して騙しているわけでもないんだ。

これは人間の野生が作り出した生態なんだ。キジムナー(自然)と人間の生態のズレは、まさにそこにあるんだ。このズレが松寿とキジムナーがうまくいかなかった理由なんだね。

そして、松寿はなぜ人間(女房)に従っていったかということだね。松寿の生態としては、女房の言うことを聞かないわけにはいかないんだ。そうしなかったら、松寿はキジムナー(自然)の生態の方に引っ張られて行ってしまう。松寿はキジムナーとの友情を維持したかったのだけれど、ついに人間の生態から逃れることができなかったんだね。

人間はそういうふうに社会をうまくいかせるために自分たちの生態を維持してきたんだ。だからそれは正解と言えば正解なんだ。女房がああいう風に松寿を誘導したことはいいことなんだよ。片やキジムナーは全く松寿のことを疑いもしなかった。気がついたら自分の家(老樹)が焼き払われていたんだ。松寿に裏切られたとおもうわけだね。そして結末としては数十年後、松寿はキジムナーに出会って殺されかける。

これは物語としてとても重要なことなんだけど、女性は生きようとするまっすぐな生態を獲得しているんだね。でも女房は松寿を操るということを意識しているんじゃないんだ。松寿も操られて行動をしているというわけでもない。だからこれこそ人間たちの生態というわけだね。

—   ああ、なるほど。

ボクネン   人間は最も安寧な家庭という場所が保証されているからね。それを守ろうとするのは人間が本能的に求めることであってさ。そうだから人間が種を残してこれたんだよ。

とにもかくにもキジムナー(自然)は加減することを知らない。キジムナーはキジムナーの生態で生きているわけだからね。人間は人間の生態で生きている。だから双方の折り合いがつかなかったというわけさ。松寿は人間と自然(キジムナー)の異界に立って結局人間の世界に戻ってきた。そういうことなんだ。

—   いゃあ、キジムナーの話からそこまでいくとは思わなかったなぁ。

ボクネン そうさ。昔話って言ったってそんな簡単に作られたわけじゃないんだ。

—  いや今日はどうも長い話になってしまって。お疲れさま。(読谷アトリエ 7月12日)