投稿日時:2013年04月08日(月) 11:40

万想連鎖 28

風の島からファサード2


 万想連鎖28 ユリの意志

那和   慎二 NAWA  Shinji(大阪通信員) 

KK28.jpgのサムネール画像

新年度を迎えてカレンダーをめくるとユリの花が現れた。月光に照らされて、静かに白く鈍く輝くユリの花。花は花であるけれど、このユリには、密やかな強い意志を感じる。人にとって花は愛でるものであっても、生命としての花は、過去から綿々と繋いできたその生命を、後世へと繋いでいく強い意志そのものである。サクラにはサクラの意志があり、ユリにはユリの意志がある。そして、ボクネンに切り取られた月光の下の白いユリの一瞬の姿は、その意志をことさら写し取っているように思われた。

沖縄のヒカンザクラは別格として、日本列島を駆け上がる今年の桜前線は早かった。九州はもちろん、首都圏でも入学式には散っていたことだろう。ここ大阪はどういう訳か、少し遅れて咲き始めた花の持ちも良く、入学式を彩るに充分な花が残っていた。新しい住まい周辺は桜の名がつく地名もあり、ぐるりと桜並木で囲まれている。もっとも、桜の種類は多く、対岸にある有名な大阪造幣局の通り抜けは、八重桜などで半月ほど時季がずれている。今年は早いと言っても、前線が列島の北端に達するのは5月に入った頃だろうか。九州から山仲間の夫妻がみえて、全国一と言っても過言ではない奈良・吉野山の桜にも足を延ばしてみた。山の斜面を埋め尽くす桜の花が靄のように霞んでみえて、「桜又桜山桜又山桜」と誰かが詠んでいたような空間に身を浸す、他では経験し得ないお花見となった。新しい年が巡れば、また桜に出会えることを疑っていないが、来年は来年の花が咲き、ひとつとして今年の花はない。花を見る自分自身の目、心の持ち様も違っているはずだから、来年はどんな桜を見るのだろうか。ボクネン作品に数々描かれている桜、様々な花々もまたひとつとして同じ花はなく、これからも絵の中に、どんな花が咲くのだろうか。

4月は、多くの人にとって新たな節目を迎える月。進級・進学、就職を迎える若い人たちにとって、環境ががらりと変わるその節目は大きい。仕事をしているすべての人にとって、旧年度を締めくくりつつ、新年度の活動が計画に沿ってスタートする。希望や期待に胸を膨らませつつ、花々が咲き乱れる季節の華やかさとは裏腹に、不安や緊張に包まれる時期であるかもしれない。

いつも陽の光に照らされるばかりではない花々。月光の下でも、ひっそりと意志を蓄え磨いているユリのようにありたい。その美しさの中にある芯の強さを見失わないでいたい。夜が明けたときに見せるユリの爽やかな美しさを思い描きたい。(掲示作品『ユリ畠』の月 1988 60.0×46.5cm)