投稿日時:2012年10月04日(木) 14:42
万想連鎖 25
釣りに興味がないわけではないが、今までする機会がほとんどなかった。きっとこれからもないだろう。でも、釣りあげられた魚には大いに興味がある。食べる機会がある肉の種類は、牛・豚・鶏・山羊・羊・馬・猪・鹿・鯨・鴨・家鴨に、せいぜい駝鳥・鰐と限りがあるが、魚は一桁違う。今年食べた魚を拾っても20や30種類は数えることができる。今まで食べた魚で何が一番旨かったかと問われても、それぞれにそれぞれの旨さがあり優劣をつけることは難しい。だから、旨さに絶対値で選ぶのではなく、ご縁あっていただくことになった魚はすべて、その魚への感謝を込めて、残さず余さず食べられないところ以外はきれいにいただくことを心がけている。
それでも、敢えて旨かった魚の記憶をたどるとき、思い出すのは、読谷村の海産物レストランで初めて食べたビタローである。本土からの観光客の沖縄の魚の評判は、おおむね良くない。良くないには理由があって、それはあのカラフルな色が食欲を減退させるのだという説が有力だが、本当の理由は、魚の取り扱い方の問題らしい。築地と那覇で魚を仕入れた経験がある料理人から聞いた話だが、平均気温がはるかに高い沖縄で、本土よりかなり少量の氷しか使っていないと言う。だから魚が傷みやすく食味にも影響するのだと言う。確かに、とろ箱に裸のまま軽トラの荷台に乗って公設市場に向かう魚を見たことがある。沖縄の魚に代わって弁護すれば、魚が旨くない責任は魚自身にはなく、人間にあるのだ。さて、初めて食べたビタローは、その外見からの想像を見事に裏切って、とても旨かった。ガーリックを効かせたバター焼きという調理法も、ビタローの肉質にぴたりと合っていた。こんがり焼けていたので、あまりトロピカルな感じに見えなかったことも幸いしたのかもしれない。
釣りには縁がないのに、ある日、釣り具メーカーのシマノが発行する季刊誌、Fishing Caféが自宅に届いた。私がボクネンファンと知った知人が、その連載コラム「Bokunen`s Museum流廻」を知らせるために、シマノに紹介ハガキを送ってくれたのである。「Bokunen`s Museum流廻」には、ボクネンには違いない、でも、海人としての感性全開のボクネンズワールドがある。それは、普段、生活している陸上から、ふと海の中を覗いてみたときのような新たな発見と興奮をもたらしてくれる。2011年秋号には、別の誌面に8ページにわたって、釣り人としてのボクネンが紹介されていた。海の中の世界が計り知れないように、版画家だけではない、ボクネンの世界も計り知れることはなく、興味が尽きない。 (作品『二ぱらのぶだい』30.0×45.6 cm)