投稿日時:2019年07月16日(火) 16:12

風の線、光の色。

 ボクネンは版画をやる前、イラストレーションを生業にしていました。その頃の作品を見てみると、やはり版画を生み出すことになった何かがかすかに感じらます。

たとえば、1985年に発刊された『てぃぬひらおきなわ昔ばなし』(うすく村出版)の「浜千鳥」(ハマチジュヤー、掲載作品参照)に描かれた挿絵は秀逸です。その軽やかな風のような線、沖縄の光を感じさせる色合い、やさしさが滲み出る人物、どれをとってもイラストレーション独自の輝きを放っています。

ああ、ここからこの作家は版画の道に入っていったんだなぁと、思わせる作品です。“手描き”の素直さが開放感をもって描かれています。この「浜千鳥」には無駄のない構成と爽やかな筆致が生かされていて、いい作品だとおもいます。

この“手描き”の感覚を版画に入ることで手放したのは、作家にとって非常に大事なことだったに違いありません。いつまでも“手描き”の感覚に安住することを拒否し、果敢に新しい線と色に挑戦したんですね。

それでも、この“手描き”手法の断念をしたからこそ、「版画」による新しい表現を克ち得たということになります。この“隙間”にこそ、この作家の求めているものが秘められているのでしょう。

<當山>

(掲載作品『浜千鳥』1985年)