ボクネン展Vol.27『記憶の海』〜生命のふるさと〜

ボクネンが描いた海の作品は膨大な数にのぼります。まさに海こそ作家がよく口にする“描き足らじ”の世界なのかも知れません。作家はなぜこうも海に魅了されるのでしょう。生まれながらにして当然のように目の前にあった海。画想の血となり肉となった海。海は生活、自然、信仰、思想など実に様々な創作の糧になったに違いありません。作家の海への“おもい”や“記憶”をいくらかでも解きほぐすことができれば、ボクネン作品の理解の手がかりとなるはずです。以前、映画『地球交響曲』(2001年)のメガホンをとった龍村仁氏がボクネンとの対談のなかで、深場まで潜る能力だけでなく海の生物や様相にもめっぽう熟知していることに対して、「現代人が忘却の彼方へ置き去りにした“原始の記憶”をいまだに留めている数少ない人間ではないか」と力説したことがありました。ある展示会では『大礁円環』(1996年)を目の当たりにした海洋学者が海底に描かれた魚や海藻たちの精確・緻密な描写に驚嘆したこともあります。さて海は43億年前から想像を絶する創造と混沌の時間を紡ぎ続けています。言わば海はアーティストにとって深淵かつ遠大な“表現”を掘り当てる器とも言えましょう。この機会に“原始の記憶”を内蔵していると言われる稀な作家の作品群をゆっくりとご鑑賞ください。

ボクネン美術館 當山忠