投稿日時:2016年06月27日(月) 13:56

ギャラリー散歩

GS1

 版画の技法は古いようだが、新しくもある。というのは直接手をくださないぶんだけ作品が仕上がったとき作家本人もおもわぬ表現効果に遭遇することができるということだが、それはなにも木版・石版・シルクだけに限らない。最近ではデジタル版画なるものも登場してきている気配だ。

 ちなみに、今年の心象作家協会の公募展「第59回心象展」の最高賞に沖縄県から翁長洋子さんの作品『THE AIR Ⅰ』が受賞しのだが、その作品が「イラストボードに墨で描いたモノトーンの版をパソコンに取り込み、デジタル処理を施し色付けした版を15〜20枚重ね合わせ」て描かれたもので、まさにデジタル版画というのにふさわしい感じがした。

 作品は鳥が光にスパークするような絵で、透明感や空間、奥行きなどが感じられるもの。ぼくは最初この作品をみて、鮮やかな光のイメージのなかで鳥が拡散していくような大胆さを感じ、版画の「新しさ」に啓蒙されたのだが、なぜかすっきりしないイメージも残った。

 その理由を考えてみると、作品のなかに粒子の破裂現象の迫力を感じる一方、そこには「人間」の「血」や「肉」、そして「おもい」のようなものが抹消されているのではないかという気がしたのである。作品の「新しさ」は確かに未来の空間景観というようなものを感じさせるものの、やはりそこには物象だけが表現されているのではないかとおもったのである。

 どんなに新しい時代、奇抜な手法であっても、やはり作品というものには、「人間のにおい」がないといつかその方向性を見失ってしまうのではないだろうか。