投稿日時:2014年03月04日(火) 15:16

万想連鎖31

 風の島からファサード2

万想連鎖31  トイレ美術館
 那和 慎二(大阪通信員)

 3月になった。見応えがあった2月の大カレンダー『星夜富士』。昨年末に、東京のギャラリーで現物を見たときの興奮もあって、超望遠・高感度のボクネン眼(まなこ)を通した富士山頂の夜空を見飽きることなく眺めてきた。惜しみながらその景色をめくると、『浜に出る』が現れた。小カレンダーの2月は、『あの日の緑門』。私がボクネン作品へと惹きこまれる入口となった緑門の構図が、3月にまた、大カレンダーに現れたわけだ。そう言えば、浜に出る小道を歩いている猫。『浜に出る』は1994年だから、まさか2月の中カレンダー『白梅』(1997年)の林を歩いていた猫ではないだろうけれど、時と場所は隔てられていても、同じ生命が連綿と続いていることを思わせる。

今年から自宅トイレのカレンダーを三つにした。他ならぬボクネンカレンダーの大・中・小。便座に腰かけたとき、左側の壁に大をかけたのは去年と同じ。今年は、その下の物入れの上のスペースに小を置いてみた。左壁ばかりが充実して、殺風景になった右側に中を掛けてみたら、トイレという用を足すための空間が変わった。美術館になった。小さいながら「ボクネン美術館」だ。私は便座での滞在時間が長い。毎日欠かさず腰かける短くない時間が、格段に充実した。3月はツツジ畑の花たち、キャベツ畑を囲む花たち、浜に出る小道を囲む花たち。花たちに囲まれたトイレの居心地は良い。『キャベツ畑の歌』にはどこかで会ったことがあるような気がして、手持ちの画集・展覧会カタログを確認した。最初の画集「南島」に『おばぁのキャベツ畑』、明治神宮の「名嘉睦稔の世界」カタログでは片隅にキャベツもある『春菊畑』を見つけたが、『キャベツ畑の歌』は見つからなかった。以前、北谷や京橋のギャラリーで対面したことがあるのかもしれない。いつかどこかで、現物とご対面できる日が来るかもしれない。楽しみにしておこう。

実は、「トイレ美術館」のタイトルを入れたのは年明け早々だったが、本文を書き進めないまま、2ケ月が過ぎてしまった。万想連鎖前号からも半年近くが経過。万象連鎖に追いつくつもりが引き離されるばかりだが、諦めずに続けていきたい。ボクネン作品とじっくり対面する美術館も手にいれたことだし、万想が湧き起こったら流れてしまわないうちに、そそくさとトイレを出て書きとめることにしよう。(なわしんじ)

BR31

                 『星夜富士』(2013年)