投稿日時:2012年09月13日(木) 17:11

万想連鎖 23

風の島からファサード2

万想連鎖23 3月18日のこと
 那和  慎二(福岡通信員
 
BR23

7月のカレンダーをめくると緑門が現れた。「島が見える緑門」。予期せずに現れた緑門にあの日のことが甦った。3月18日。美術館で行われた制作ライブパフォーマンス。固唾を呑んで見守ったボクネン対シナベニヤ、小一時間の格闘。版木から剥がされた月桃紙に浮かび上がったのは、やはり緑門だった。ボクネン作品の中に繰り返し繰り返し現れるテーマ。ボクネンワールドに深くはまり込むきっかけとなった「緑門」。やはり、とは書いたが、意表を突かれたような気もした。「緑門」が現れるのではと期待して見守っていたら良かったと、期待を抱いていなかったことへの淡い後悔に似た気持ち。

そんなときに、一番前に陣取って館長の近くに座ったのだから、当然と言えば当然、感想を問うマイクが回ってきた。が、しかし、これまた当然と言えば当然、感想ベタの私に当意即妙の言葉などなかった。流れたマイクが拾うその方その方なりの素直な感想に関心しながら、何も言葉を持たない自分がいささか情けない。さて、旅から帰り、時が経てば、感想が熟成してくるかと思ったがそうでもない。見たい見たいと希い、やっと叶った制作ライブ。その圧倒的興奮をまだ消化できていないのかもしれない。やはり感想は書けない。

忘れかけていると、ふいに目の前に現れる緑門。H..ウェルズの短編だったか、「くぐり戸」という作品を思い出す。いつかくぐろうと思いながら、最後にくぐったくぐり戸の先の穴に落ちて死んでしまう男になろうとは思わないが、空想の中でも自在に緑門をくぐりながら、実況中継の如く流れるような感想を述べてみたいものだ。

 そうそう、初めての飛行機に乗って男の子が沖縄に行く今年の全日空のテレビコマーシャルは良かった。もっとも、沖縄では放映していないのかもしれないけれど。何が良かったかと言えば、その行き着いたところが、沖縄本島本部町、備瀬の海岸だったからである。短い映像でもすぐにわかったのは、制作ライブの翌々日、どうしても緑門が見たくなって備瀬を訪ねていたからである。アーサに覆われた岩礁の鮮やかな緑を目に焼き付けていたから、テレビ画面に映る景色が嬉しかった。一瞬でも緑門の構図が入ればなお良かったが。

 しばらく沖縄には行けそうにもないので、数年来、撮りためてきた伊是名の風景写真を眺めている。幸い手元には何冊ものボクネン画集がある。以前は知らなかった制作過程を思い浮かべることもできる。改めて作品を見つめなおすこととしよう。違ったボクネン観が経ち現われてくるかもしれない。溜まっている万想を、また少しずつ紡ぎだしていきたい。

             (写真:2012年3月18日の制作ライブパフォーマンス)