投稿日時:2011年01月15日(土) 11:35
風の島から Episode 9
日本経済新聞の『肖像〜九州・沖縄〜』のインタビューに応える
2010年もあと2週間を残すという昨年の12月中旬。ボクネン美術館を取材で訪ねてきてくれたのは、日本経済新聞社の支局長の池沢健一さんと、カメラマンの斎藤一美さん。ジャノスでの2時間ほどの取材と、ボクネン美術館での撮影を滞りなく終えた。
「なるべく自分ではなくなる方向に、絵をもっていきたいんです」
ボクネンの言葉に、のっけから耳を傾けるふたり。
「それは、版画となんか関係が?」
ふたりは目で質問をぶつけてきた。
「イラストや絵で、線を描いている状態は、それはそれでいいんですが、版画は結びあう線と線が途切れていたりして、予想もしない表現の効果が出てきたりするんですよ。これがまた、おもしろい」
「………」(ふたり黙)
「そうすると、以前にイラストなどを描いていたころと違って、ある意味、そのとき自分ではなくなるんですね。そこが、ぼくにとって版画に惹かれているところなんだと思います」
「ああ……。なるほど」
「すると、ボクネンさんがいつもイメージを”とる”ためにすばやく絵を描くときというのは、その自分でなくなる状態と近いということになるんでしょうか? つまり早く早く作品を彫るということは、自分でなくなる方に近づいていくというか…」
「ああっ…、そうかも知れません。そういうときが、いちばん自分にとって一番いい状態という気がしますね」
ボクネンも池沢さんの言葉に、反応を始めた。
こんな感じのインタビューが続き、2時間予定のインタビューも、いつのまにかオーバー気味。しまいには現代人が”野生”を忘れて人間本来の実像から目をそらせている話から、現在の錯綜している複雑な社会問題のことまでテーマが洪水のように及んだ。
インタビューが終わって、それから撮影のために美術館へ。ところが、カメラマンの斎藤さん。撮影についやす時間と同じくらいに、ボクネンと話す時間が長い。ボクネンに語りかけながら写真を撮り続けているのである。
「さきほどもボクネンさんのインタビューをじっと聞いていたのは、いい写真を撮りたいからだったんです。いま話しながらシャッターを押しているのも、そうしないとボクネンさんの写真はきっといいものが仕上がらないと思うからなんですね」
池沢さんも斎藤さんも、もう真剣そのもの。やっぱり、プロだなと思うことしきり。
このインタビュー記事は今年1月中旬、日本経済新聞の『肖像〜九州・沖縄〜』に掲載される。