投稿日時:2011年03月09日(水) 17:18

万想連鎖 5

風の島からファサード2

 ボクネン版画に思いを寄せる全国の通信員たちの「声」を届けます。トップバッターは、福岡県の那和慎二さん。その20年来のファンぶりは、作家や作品の機微にふれ、思わぬ情報がいっぱいです。それでは、那和さんの『万想連鎖』シリーズをごゆっくりどうぞ。


 

 万想連鎖5 伊是名がいざなう

 那和 慎二(福岡通信員)

  島に入りては島酒を飲む。沖縄在住58ヶ月で、一度も訪ねたことがなかった伊是名島。ボクネンを生んだその島に、思い立って3年前、出かけた。沖縄の中にあって、観光化・情報化が進んでいながら、ウチナーンチューでも行ったことがある人は少ない。ネットで調べて、たまたま最初に電話したのが民宿「美島」だった。行ってわかったのは、ここの家も名嘉さん。親戚ではないらしいけれど、ご主人はぼくネンさんと同級生。女将のT子さんはボクネンファン。ダイニンググルームはもちろん、すべての客室にボクネン作品が飾られている。初めての伊是名。バスはもちろんタクシーの1台もない島だと着いてから知ったが、幸い美島の隣はレンタカー、簡単な手続きでバイクを借り、島を駆け巡った。強い夏の日差しの下、押し寄せてくる風と光とともに、景色を写真に撮りまくった。その夜、郷に入りては、島酒を飲まないわけにはいかない。島めぐりはバイクを使ってラクをしたが、日焼けと島風に当たり過ぎて、島酒は身に沁みた。名酒、『常磐』の旨さが、ボクネンのボトルラベルで倍加されているように感じられる。酔いもまた倍加して、ふらふらと外に出て見た夜空は、まさに「星の叢花」。どこか遠くにあると思っていた星々が、実は自分もその星々の中にいることを、その日は実感させてくれた。

 さて、気持の良い酔いにまかせて、私のボクネン歴から語り始め、女将、T子さんとはお互いにしゃべりたいことをしゃべる応酬。酔いと酔いとが絡まりあって、話がどっちに行っているのかわからなくなりかけた頃、突然、海亀が出てきて、T子さんと私の話が噛み合った。以前、美島に泊まった女性客が「波産玉」を買ったのだと言う。どうしても1/30が欲しいと希望したが、東京に行ってしまい、北谷には2/30しかない。それならばと2/30の「波産玉」を購入した。まさかその1/30を購入した私が、T子さんの前に客として、島酒を飲んで酔っ払っていたのだ。そんなことがあるものかと驚いたが、小説より奇なる現実はある。その場で、T子さんはその女性客、佐賀県のMさんに電話をして事情を話し、携帯を渡してくれた。お互いに驚きなが、M子さんと私はしばし初めての会話を楽しんだ。

KK5

 M子さんは、海亀よりも三人の女神を見ていたのだけれど、切れてしまいそうな蜘蛛の糸を手繰り寄せるように、M子さんを通じて、たまたま話は私へとつながった。ボクネン作品によるこの偶然の出会いを驚くことはできるが、森羅万象、今、この世のすべてのものと同時にある偶然は、そんな小さな偶然を、はるかに突き抜けている。「波産玉」。伊是名の浜に寄せる波から、今もまた、数限りない偶然が産まれている。(写真:島東側からチジン山を望む)[続く]