投稿日時:2010年12月13日(月) 13:17

万想連鎖 1

風の島からファサード2

 ボクネン版画に思いを寄せる全国の通信員たちの「声」を届けます。トップバッターは、福岡通信員の那和慎二さん。その20年来のファンぶりは、作家や作品の機微にふれ、思わぬ情報がいっぱいです。それでは、那和さんの『万想連鎖』シリーズをごゆっくりどうぞ。


万想連鎖 1 緑門に佇む 那和 慎二(福岡通信員) 

 ボクネン作品に出会って20年近くが経った。いろいろな思いが重なり合っている。その思いを少しずつ切り取って、言葉に紡いでみたい。

 昨年(2009年)、北谷のギャラリー作家来場の折、ボクネンさんから聞かされていた構想、ボクネン美術館のオープンに合わせて沖縄行きを計画した。当初717日と聞いたオープン日時は、どうやら遅れていて、正確な日取りをなかなかつかめないでいたが、そこはボクネンファンらしく「あたり」をつけて沖縄行きのチケットを予約してしまった。自分なりの流儀として、島風を身体に纏って作品に向き合いたかったから、前日に伊是名に入り、島の空気を深く吸った。当然のことながら、定宿美島で島の酒も深く吸った。吸い過ぎたかも知れない。

 724日、前日の雲が払われた快晴の朝、強い光の中でどうしても見ておきたいものがあった。伊是名場外離着陸場の北側、さとうきび畑の奥、木漏れ陽を抜けてたどり着く海岸線へのプロローグ。そこに、手前からライトブルー、中程にエメラルドグリーン、遠くコバルトブルーと、層を成す海を縁取るように、「緑門」があった。

 珊瑚花畑シリーズ「緑門」。1991年、沖縄三越、第2回個展会場。その夥しい作品群の中で、瞼に焼き付けられたその1点を忘れることが出来ず、当時、泊港近くでギャラリーを開いていたA氏にお世話をいただいて、数ヶ月後、「緑門」に再会する。それまで、美術というものにとことん縁がなく、絵を買うということが分不相応な大それたことのように思われたのに、その作品を購入することに、なんら躊躇を持たなかったのは不思議だった。

KK1

 果たして、我が家の壁を飾ることになった「緑門」は、いつでも沖縄の海へ、大自然の中へと足を踏み入れる入り口として、身近にあり続けてくれている。その後、転勤を繰り返した行く先々の土地でも、「緑門」がいつも沖縄を身近なものに感じさせてくれていた。

 ボクネン美術館に足を踏み入れる前に、ボクネン作品との最初の出会いである「緑門」、その原風景を伊是名の海に見ておきたかったのである。緑門が縁取る伊是名の海にしばし息をのんでいるそのときは、まだ、新しいギャラリーで起こる新たな展開を想像すらしていなかった。(続く)