投稿日時:2016年03月01日(火) 15:16

ギャラリー散歩

ギャラリー散歩09

 昨日の閏年の付け足し日である2月29日、午後2時よりボクネンの新作の着色があるということで、読谷のアトリエまで足を運んでみた。まさに、その日に産まれたばかりの作品だった。ので、まだ命名はない。ちなみに作品は、この3月26日から始まる『神々の山』展に向けた作品群の一環で、その日の作品は20数年前に見た剣岳の印象を彫ったものである。

 アトリエの床に敷かれた、昨夜に彫られ黒のみで刷られた着色前の作品をみて、まずぼくが感じたのは角々しい刃物のような直線が動き、ほとばしるような爆発、つまりはなにかの誕生の現場のようなイメージであった。つまり、生命をもつ前のなんらかの物体という感じだ。いわば細胞というか、そういう原始感のあるまだ未成熟といった世界のようなのである。言ってしまえば「生命以前の生命」といったところだろうか。苦しみも楽しみもまだない、命の産まれる寸前という感じであった。

 そうして午後二時を過ぎると、作家がものすごい速さで着色を始めた。作品は黒と青の2色なので、青を全体に塗り込めていくことが作業になった。さて着色が始まると、おもしろいことにさきほどまで「生命のない生命」とおもっていた完成半ばの作品が、少しずつ少しずつ「生命のある生命」というふうに生き生きと進化するではないか。

 ああ、これはとおもった。版画制作を2段階にわけるとすると、①最初の黒刷りの状態と②後半の着色された状態ということなんだなぁ。とおもいながら、あらためて制作過程のおもしろさに興味を覚えた。つまりは最初のモノクロ状態に着色していくことで、作品に生命を吹き込んでいくのが着色版画なのであった。

 さて、このアトリエ訪問の際に「作品へのおもい」や「山」についてのインタビューも採録した。近々、作家直接の話をギャラリーでビデオにしてみなさんに観てもらうことになっている。乞うご期待です。