投稿日時:2015年08月31日(月) 15:18

おしゃべりQ館長 その27

OQ表紙

 もう20年以上も前のことだとおもう。プロジェクト・コアのみんなで伊是名島へ旅行に行ったことがある。余談だが、これを当時は「コア・トレ」と言った。もちろん、そのときボクネンの生家も訪ねた。

 生家に行った際、僕はなにげなく裏部屋に入ってみて、びっくりした。そこに、油絵が一枚だけ壁に掛かっていたのである。とくに驚いた理由はとっさにゴッホの田園風景の絵を憶い出したのだ。ぼくは偶然にもその「絵」が中学時代のスケッチブックの表紙として印刷されていたのをよく覚えていたのである。さて、その「絵」が最近、ボクネンのアトリエに保管されていたので、なんとも懐かしいおもいにとらわれた。今日は、このボクネンが初めて描いたというこの「油絵」について、ちょっとおしゃべりをしてみたい。

 ボクネンが触発されたゴッホの絵の正式名称は『ラ・クロの収穫』(1888年)。ボクネンに聴いてみたら、やはりゴッホの作品に触発されて16歳のときに描いたのだという。ちなみにボクネンが描いたこの絵のタイトルは『クシセンバル』(1969年11月)と言う。

 『クシセンバル』は、ゴッホの絵のように収穫を待ちかねる黄色い穂が画面の半分近くを被っていて豊かな農作地帯を表わしている。言ってしまえば、この絵の魅力はほとんど画面全体を占める「黄色」の温かい力なのだとおもう。のどかな農村風景、ゆっくり流れる時間、額に汗して懸命にはたらく農夫たち、これらもろもろの景物はこの「黄色」によって情感的にまとめあげられているのだ。

 作品の上4分の1ほどの空に浮かぶ綿飴のような白い雲も手に取りたくなるほどのふんわりとした穏やかな動きをしている。それと、ぼくが「黄色」とともに目を奪われたのは、腰を曲げて農作業に余念のない4名の農夫たちだ。

 なんだろう。この農夫たちのひとなつっこいふっくらした造型、まるでかわいい木彫りの人形のようだ。農夫たちの愛おしいほどに小刻みに動く朴訥さは観ていてもなんだか嬉しくなる。農夫たちが自然の恵みに感謝し、その収穫の喜びを自らの動作で慎ましく表わしているのだ。

 それでは、みなさん、その『クシセンバル』作品を下に展示しますので、とくとご覧下さい。

OQ27

『クシセンバル』