投稿日時:2013年09月21日(土) 11:19

万想連鎖30

風の島からファサード2

万想連鎖30 NINE LABORS ONE FLAVOR
那和  慎二(大阪通信員)

 日本列島を台風が通り過ぎて、また穏やかな日々が戻った。観光地として有名な嵐山の渡月橋があんな濁流にさらされるとは想像もしたことがなかった。昨年の九州北部豪雨では、床上浸水家屋の復旧を手伝ったから、現場の悲惨さを知る者として、被災者の心痛を思う。美しい自然も、厳しさや痛みとともにある。ただ台風が去った後の涼風と青空は格別だった。

今年の夏、初めて金沢を訪れた。二泊三日の短い旅。余り調べすぎると欲張りになり、その情報に振り回されて気忙しい旅になる。兼六園と能登半島は外せないが、あとは現地の天気次第、足の向くまま気の向くままとした。ひがし茶屋街の情趣を楽しんだ後、ホテルまで散策しながら帰る道すがら、ここは近道と入り込んだ路地に小さなギャラリーが現れた。たまたま通りかかったその店は、日本を愛し、日本に住み、日本の風景を版画や墨絵で描いた米国人、故クリフトン・カーフ氏の作品を扱うギャラリーだった。作風も希望もボクネン作品とは全く違うが、版画という共通点が足を店の中へと引き寄せた。店主の香川氏が飛び込み客の私たちを温かく迎えてくださり、作品を丁寧に説明していただくうちに、その作品の中から、30年も前に京都祇園で出会っていた作品を発見した。墨絵に添えた英語と日本語が洒脱な魅力を放つ。そのうちの一つが「NINE  LABORS  ONE  FLAVOR」一つの味に九労あり。と日本語を添えたその墨絵は、料理の心得を教えてくれる。偶然によってもたらされたその言葉は、料理を学ぶ妻の座右の銘となった。沖縄のことわざに似たものはないかと、ボクネン挿絵の「おきなわことわざ豆絵本」を引いた。同義ではないが、「浜ん微石ぬ集まい(はまんしだしぬあちまい)」や「一足から二足(ちゅひさからたひさ)」は、同じ精神を含んでいるように思う。

間もなく迎える九月末、今年も熊本に「琉球の風」が吹く。沖縄音楽界の第一人者、知名定男氏がプロデュース、沖縄ゆかりのアーティストたちが出演、心ゆくまで沖縄を楽しむ一日となるだろう。この日のONE  FLAVORのために、それを支える多くの人たちのNINE  LABORSを思う。われらがボクネンもポスター・パンフレットを彩る「さきよだの神歌」作者として参加している一人。そして、このイベントを始めた故・濱さんの労苦があって、この日がある。

思えば、今日の穏やかな日々を得るまでに、雨風にさらされる日々があった。これからも台風が来ない年はない。「NINE  LABORS  ONE  FLAVOR」この言葉を料理だけの心得とせず、人生の労苦を乗り越える香り高い言葉としたい。

KK30.jpg『さきよよだの神歌』(1992)版木寸法30.4×45.0(cm)