投稿日時:2012年03月14日(水) 20:18

万想連鎖 22

風の島からファサード2


 

ボクネン版画に思いを寄せる全国の通信員たちの「声」を届けます。トップバッターは、福岡県の那和慎二さん。その20年来のファンぶりは、作家や作品の機微にふれ、思わぬ情報がいっぱいです。それでは、那和さんの『万想連鎖』シリーズをごゆっくりどうぞ。

万想連鎖22  下心

那和慎二(福岡通信員)

BR22花見-1997-

 ここに綴っている言葉は、すべてボクネンへの私信である。公式サイトに公表されたのは、書き送った後でそうと決まった。掲載されても、第三者が見ることを前提にしているようで違和感がないのかもしれないが、それは、私個人のボクネンへの照れとして、そうとしか表現できなかったのである。そもそも、ボクネンから絵への感想を問われて、感想という表現の仕方を知らないことに改めて気付いた。自分が書ける方法でしか表現できなかったのである。
しかし、今、公式サイトに掲載された後に芽生えた自分の中の下心を感じている。下心。その言葉の通りのいやらしい感情。ボクネンだけでなく、第三者が見るのであれば、第三者に見せるチャンスが与えられているのだから、そのことを利用しようという気持ちが芽生えていることを自覚し始めている。それは、そのことをボクネンが受け入れようと受け入れまいと、自分として好きなことではない。だから、ここにボクネンへの想いを綴ることをやめるのではなく、その下心を自覚して大きくならないよう心しながら、万想は連鎖させていきたいものだと思う。ボクネンの絵が美しいものだけを切り取らないように、万想の中に立ち現れる醜い己の心も切り取って書いておきたい。
さて、5月15日のトークライブの後、そそくさと帰ったのは、飛行機の都合もあったが、那覇市内に一つ、どうしても寄りたいところがあったからだ。離婚して糸が切れた凧のように、ふらふらと沖縄を彷徨った数年前、偶然通りかかった店で、私にシーサー作りを教えてくれた師匠。その人が、その後、公設市場の近くに開いた小さな小さなお店、「ゆくい海月」に寄りたかったのである。沖縄でビーチグラスアートの世界を切り拓いたご主人を亡くし、失意の中、沖縄に残って立ち上がり、小さなアクセサリーに独自の宇宙を創る安部井明美さん。女性向けのアクセサリーに興味はなかったが、巨大なクワズイモの葉陰に隠れるようなその空間と主のその人柄にひき寄せられていたのだ。同行していたもう一人のボクネンファンも、たちどころにその魅力を理解し、お気に入りのアクセサリーを見つけ出したので、無事、プレゼントと相成った。
さあ、ここで問題なのは、ここに、この店のことを書くこと自体に、何らかの下心が含まれているのではないかということ。第三者が見ることを前提にすれば、宣伝媒体として使うことも可能なのだ。だからと言って、健康食品だの羽毛布団だの毛生え薬を売るつもりは決してない。己が心の中にある素直なお気に入りが、あるがままに文字となって立ち現れることがある。そう受け取っていただければ幸いである。今年の台風は、その店のクワズイモを容赦なく叩きのめしたが、店の輝きは今も健在である。店主の頭には、ときどきボクネンのバンダナが巻かれている。