投稿日時:2011年12月06日(火) 15:40
おしゃべりQ館長 File 06
ほら、そこに神さまがいらっしゃるよ。
前回の「Flower Matrix」に続いて、今日(2011年12月1日)の午後3時頃、またボクネンの新作花滝シリーズ第6弾を観ました。サイズは前回の『月下美人乃花滝』と同じ縦183.0cm、横182.5cm(和紙・木版・手彩色)です。
逸る心を抑えて、まず新作のタイトルを言いましょう。『仏桑華乃花滝』です。私は正直言って、この作品を観て面食らいまいした。なんて言うんでしょう。前回の『月下美人乃花滝』では、「月下美人」の集群たちが全体では「静」であるのに各々個的には充分な動き(エネルギー)を発揮していました。『月下美人乃花滝』には「動」と「静」が渾然一体となって集群している作品であることを述べたと思います。そして月下美人たちは個が互いに遺伝子の回路を通してひとつの集群を成り立たせていました。
作品は全体に「月下美人」たちが縦横整列するように規則正しく描かれていました。いわゆるマトリックスと言いますか、行列というよりなにかの回路網のように私は受け取りました。
さて今回の『仏桑華乃花滝』です。私は当然のごとく花滝シリーズ第6弾は集群の回路の奥にある細胞的なテーマを模索するのだろうと思ったのです。
ところが私の予想(期待)は完全に覆されました。作品(最下段参照)は右端の4分の3程に仏桑華に集群の塊があり、右側には4分の1程の割合でまた仏桑華の塊があるのです。全体に散りばめられた仏桑華はまるで生命を謳歌する赤い血のごとくほとばしるように配されています。右端の塊と左端の塊の上方にはやや右寄りにV字型の青空が見えます。そのV字型の下に向かう先が、右端の塊と左端の塊を分ける垂直軸になります。
私は瞬間的に思いました。右端の塊は男性(牡)、左側の塊は女性(雌)だと。いわゆる集群の男性と女性は抱き合っているか、あるいは交接をしているように見受けられました。天(青空)から降りてくる垂直軸はその交接を祝福するようになだらかな境界線を描いています。右側の塊の女性は美しい縦の造形を形づくっていますし、左側の塊の男性は朴訥で肉体的表象に象られています。
作品全体に仏桑華は散りばめられていますが、男性の左側のある空間に「白い仏桑華」がいくらか配されています。これは男性を戒める「神さま」のある表象なのではないかと感じました。女性はそのもので「神さま」ですから、左側の集群には「白い仏桑華」は必要ないのです。
さて、私はさきほどから逸るこころを抑えながら、次のことを創造的努力の意味も込めて言ってみたいと思います。
この作家はもう20年以上も前から「神さま」を描くときには、どうしても人間の形にならざるを得ないと話していました。
さて、私はこの『仏桑華乃花滝』で、その神さまを人間の形をしないまま表現しえたのではないかと思っています。その神というのは右上からV字型の隙間から見える青空です。これはこの作家にとって、無意識の意識を造形化した神ではないかと思っています。もちろん、神は一か所に居るわけないですから、そのV字型の空からあふれ出て作品全体に存在していることになります。
この作品名はもちろん作家がつけたもので『仏桑華乃花滝』と言いますが、私にとってはこの作品名は『ほら、そこに神さまがいらっしゃるよ』なのです。
ボクネン美術館館長 當山 忠 2011.12.1
仏桑華乃花滝