投稿日時:2010年11月25日(木) 14:23

風の島から Episode 7

風の島からファサード2

写真家・故比嘉康男さんの展示会を訪ねる

  112日。まだまだ陽射しは、やわらかい。その日、沖縄県立博物館美術館は、まるで琉球諸島の島々から神々が降りてきたようだった。ボクネンの敬愛する写真家比嘉康男さんの没後10年の本格的な展示会が始まったのだ。

 比嘉さんの作品は最初のころ、沖縄の社会的な現状に目を向けたものであった。それから宮古島の祭祀と出逢い、衝撃を受ける。そして琉球弧をくまなく廻り祭祀世界にのめりこんでいったのである。まさに、比嘉さんは沖縄を代表する写真家。それは作品の超絶した素晴らしさから誰もが疑えないことだ。

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 その比嘉さんが具志川で「沖縄そば屋」」をやってるころ、ボクネンは機会あるごとに立ち寄り、時間を忘れて沖縄や創造についてとことん語り合ったなか。

 そのころを、思い出したのだろう。

 ボクネンは会場に入るや、ほとんど誰とも口を利かず、162枚もの作品群を次から次へと眼と胸の奥底に納め込んでいった。

 じつは、この展示会。比嘉さんが溜め込んでいた写真を自ら編集し、写真集を敢行する手筈であった。

 無念にもその思いがかなわなかったため、今回の展示会は比嘉さんが進めていた編集スタイルで進められることになったのである。タイトルを『母たちの神』と銘打ち、「神迎え」「神崇め」「神女」「神願い」「神遊び」「神送り」の6章に分け、県立美術館はその日、比嘉康男の泉のごとくわきあふれる創造世界で埋め尽くされた。比嘉さんが写し出した渾身の11枚は、まるで写真のなかから神女たちが歌い踊りながら、いまにも抜け出してきそうな作品ばかりであった。その強烈なリアリティーは、ほとんどの鑑賞者を立ち止まらせるにじゅうぶんであった。

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 ボクネンは全作品を見終わったあと、館外の休憩所でポツンと口をついた。

 「比嘉さんが映し込んでいた祭祀の神女の世界は、まるですべて祈りそのものだったね。ひょっとしたら、比嘉さんのカメラのシャッターを押す手自体が、「祈りの手」だったのかも知れない。そうすると創作することは、すべて「祈りの手」に通じるのかも知れないね」

 そういえば、ボクネンは森に入る時も、作品を彫り始める前にも、祈りを欠かさない。

 比嘉さんは「シャッター」で祈り、ボクネンは「彫刻刀」で祈っているのかも知れない