投稿日時:2013年06月20日(木) 16:31
おしゃべりQ館長 File 09
創作における速度の構造
画家には作品を仕上げるのに「速い」タイプと「遅い」タイプがいる。もちろん「中くらい」という作家もいるだろう。ちなみにボクネンは「ありあまるイメージを逃さないために」かなりのスピードで作品を仕上げる。以前に「速度は美しい」という言葉を聞いたことがあるが、まさに驚くべき速さで版画を仕上げるときは、なんだか違う人間になっているような気がする。
ところでその「速さ」である。果して「速く」作品を仕上げることは、その良し悪しに関係するだろうか。それは否だろう。そしたら「遅く」作品を仕上げるひとは傑作を生めないことになる。そんなことはないだろう。
ボクネンのように「速く」作品を仕上げる作家はじぶんにとって制作のリズムがよく、やりやすいということであり、それは作家の資質といってよい。
それでは「速い」作家と「遅い」作家の作品制作における違いはなんだろう。これには、ある世界一美しいと言われる数式がいくらかの答えを導いてくれそうだ。
その数式はアインシュタインが考え出した「E=mc2」(2は上付)というものだが、実はわたしも、とんと理解がおよばない。とりもなおさず物の本を読んでみると、まず「速く動いていると時間はゆっくり進み、物の長さも短くなる」という。とすると、ここで勘のいい読者は「ボクネンのスピード」に関係するのではないかと気づくはずである。つまりボクネンがものすごいスピードで版画を彫ったり、色づけをするのは時間をゆっくり進ませ、作品自体の長い素材も視界に入りやすくためではないかとおもわれる。
いわばボクネンの創作法は「E=mc2」という数式によって解き明かされるかも知れないとおもわれてきた。さらに「質量エネルギーは同じもの。止まっているものでもエネルギーをもつ」というから、表現時に頭のなかに静止させている画像はその質量だけのエネルギーをもたせることになる。
ちなみに相対性理論で言えば「時間や空間の長さは、立場によって伸びたり、縮んだりする」と言うから、作家が速く仕上げたりふと止まったりすることは、作品における「時間や空間の長さ」を伸ばしたり、縮ませたりしていることになる。
作品にとりかかっているとき、「時間の進み方も物差しの長さもじぶんが相手に対してどういう
速度で動いているかという立場によって変化する」ということもうなずける。ここで「相手」を「作品」と言い換えることができるだろう。
ここで一等最初に言ったように、それぞれの作家はじぶんの創作時における速度はみずからが決めるわけだから、「遅い」「速い」に関係なくそれぞれの「E=mc2」を追求すればいいわけである。
つまりは作品の良し悪しは、「速い」「遅い」は関係がないことになる。ただ、やはり「速度は美しい」。(本文は水谷仁氏の『世界一美しい式「E=mc2」』を参考にしました)
ボクネン美術館館長 當山 忠